23時。
無事に辿り着いた。
今は部屋でヒーターをつけて温かい飲み物を胃に流し込んでいる。
秋田市日帰りピストンを舐めていた。
20時、ただ街を出る際にガソリンを入れ忘れただけで、九州でならほんの些細なよくあるミス一つで、ここまで追い込まれることになるとは。
引き返してでも入れるべきだった。
カブの燃費はフル積載で45km/Lと記憶している。それも半年前の数字だ。
頼むから残り30kmくらいまでラスト1リットル持ってくれと願っていたら、残り45kmで最後の携行缶の1リットル投入。
冗談じゃねえぞ。
この秋田市から乳頭温泉郷までの何も、本当に何もないクソ田舎に24時間のスタンドなどない。
時速30kmを維持し、坂道ではチャリンコ走行に徹し、どれだけ遅くなってもいいからとにかく住処まで走ってくれと祈るような思いで走ること数時間、何とか辿り着いた。
熊のうろつくあの無人区間のブナの森の中でもしも止まったら。
もしも季節が冬だったら。
こんな時こそ神々の山嶺における羽生丈二の手記のようなリアルな文章が書けるのではとも思ったが、あの闇の中でバイクを停める勇気はなかった。
こんな間抜けなミスでここまで追い詰められるとは。秋田を舐めていた。昼と夜では世界が変わる。19歳のときに鹿児島県志布志市でやらかしたことをまた繰り返している。
携行缶がなかったら、どうなっていた。
オーストラリアは街と街の間が300km離れているなんてザラだと聞く。
走れるのだろうか、こんな調子で。
恐ろしい夜だった。