8月23日(水)晴れ
23:26 ホワイトホース野営地
8時起床。めちゃくちゃ寝た。
昨夜は24時過ぎまで星を眺めていた。たぶん、人生最高の星空。
新月に晴天が重なり、一面星の海。北にひときわ輝く星が一点あったが、あれが北極星だろうか。北斗七星も何だかものすごく大きく見えた気がする。
写真は撮らなかった。んなことより眺めていたかった。
9時半出発し、今日もひたすら走る。ホワイトホースが近付くにつれて道も景色も単調となり、完全の最果ての力普通の土地に戻ってきたように感じた。
アラスカの州旗のように北斗七星が寝ていた。北斗の拳で学んだ者としては、こんな寝た姿じゃないんだよな。
そういや誰かと一緒の野営は北米では初めてだった。
北米での交互通行待ちでは蚊や羽虫にたかられる。南米、チリのアウストラル街道ではアブだった。アブよりは蚊の方がマシかな。
こんな雲ひとつない天気は初めてだったかも。
13時半ホワイトホース到着。
ソッコーでティムホに転がり込んでいつもの席を確保し、作業などに没頭した。お供にはハニークルーラーとチョコクロ、んでコーヒーLサイズ。12日ぶりのティムホの甘さに唾液腺がジンジンした。
んで18時、Walmartでハムとパンを買ってビジターセンターのベンチで晩飯。ホワイトホースのWalmartは何故か肉類が全く置いていないのがダメ。
今日もいつもの如く走りながら考え事をしていた。ひまなんだよな。
「どうやって旅のことを話して伝えるか」ということについて悩みまくっていた。
結論は、ムリ。
話して伝えるなんて、よほど信ずるものが同じか、同じ経験を持つか、アンテナの同じ人間でないとムリ。
旅の話を聞かせてよと言われたらどうするか。真剣に答えるなら、ブログ読んでくれとしか言いようがねえ。
その場限りで適当に話すことならもちろんできるが、そんなことはしたくねえ。
でも、読まねえ。聞いてくるやつに限って読まねえ。そもそも大半の人間が文字を読めねえ。理由は、時代じゃないから。
でも俺は読んで欲しい。それ以上に伝える術を持たないから。
人によって様々な術を持つ。
動画、ブログ、紀行文、漫画にする人だっている。
たぶんその人達も、友人知人に旅の話をしてと言われたら、「編集した動画があるから観て」とか「漫画書いたから読んでくれたら嬉しい!」とか答えるはずだ。答えたいはずだ。だって、真面目にやってんだから。しかも100%純粋に伝えたいから。旅に臨んだ自分の心や旅を通して得たナニカをわかって欲しいから。
でも、聞いた側はそれに応えない。
俺の場合は、わかってくれなくても知って欲しいと思う大切な友人とかに限って応えてくれねえ。ラジオさえ聴いてくれたかわからねえ。女々しい話だがよ。
俺は何者でもないただの男だ。
そんな男の記録が読んでもらえないのは、まあ友人としても百歩譲って仕方ねえ。
しかし、精魂込めて作品にまで昇華した人たちに限っては別だ。
そんな人達の努力の結晶が、手にとって欲しい人たちに限ってそうしてもらえない。そんな悲し話があるかよ。
俺のモヤモヤなんて比じゃないだろう。例えばはるかさんはその辺、どうしているんだろう。
角幡さんも『新・冒険論』で言っていた。本を読んでもらうしかない、と。口頭でこの場で話せなんて、無理な話だと。
一生追いつけない高みにいる偉大な冒険家がこういっているんだ。俺がこれから一生掛けてこのことについて考えても、これ以上の回答は得られないだろう。
たった1ヶ月の日本一周でさえ無理だったんだ。
そもそも、いきなり口で話をさせて、その内容でその行動者の旅を評価するってのか?よく考えたら失礼にも程がある話だ。
実際思う。そんな当たり障りなく無難に纏めるしかない状況で出た言葉で、俺の旅を一方的に評価されても困る。ブログさえ目を通してくれないなら、もうこっちから話すことは何もない。他の優しい旅人に相手してもらってくれ。
とまで言いたくなる。
だってこれでも、文字通り命賭けてんだからよ。
俺はプロでもなんでもないけどよ。遊びであって遊びじゃねえんだよ。
帰ったら、どうしよう。ブログ読んでくれなんて言ったら、「お前何様やねん」と普通の人はなるんだろうか。なるんだろうな…。メンドクセーな…。
だから旅人は皆、本に纏めるんだろうな。結局、それが本人にとっては最良の手段なのだろう。
それでも本当に読んで欲しい人全員が読んでくれるわけでもねーし。
友達だから読む。それじゃダメなのかよ。いいじゃねーかそれで…。
旅人ってのは…いつも孤独が纏わりつくなあ。もう終わったと思ったんだが。だから『同志』と呼ぶのだろうな。難しいなあ。
今度、同志達に聞いてみよう。ねる。
ティムホも考え事には良い場所。
俺の家。
椅子と机にありがたがる生活もあと少し。
お気に入りの場所。マジックアワーで色が変わってゆく豊かなユーコンの水面は延々と眺めていられる。
走行距離 280km
金 食糧1500 ティムホ900