ただの男がバイクで世界一周を叶えるまでの記録。

高校生からの夢、バイクで世界一周を叶えるまでの記録をまとめたブログ。旅の理由、決断に至るまで、お金のこと、旅の準備、旅の様子など、考えうる全てを後に続くライダーのために残したいと思っています。

【Day267 Coldfoot〜Fairbanks】もうひとつの時間

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8月16日(水)晴れのち雨

 


7:13 COLD FOOT CAMP

6時起床。ゴール到達の安堵感と極上の祝杯のおかげか、これまでにないほどグッスリと眠れた。

体を暖めるために前室に置きっぱなしのドラゴンフライで急いでお湯を沸かし、コーヒーとクッキー4枚、生姜湯を朝飯に頂いた。

旅に一つの区切りをつけ、爽快な朝の青空の下、暖かい食事をテント内で一人ゆっくりと摂る。考え事を落ち着いてするには最高の環境だ。

 


到達したことを、高橋さん、お母、ケイスケ、かつひろ、そして同志たちに報告した。

生姜湯啜りながら、そんな彼らや、今まで出会った人たちの顔を思い出したらまた泣いてしまった。いつからこんな泣き虫になったのか。

俺は彼らに次に会ったら、まずはありがとうと言わなければならない。色んなことに対しての、ありがとうだ。

人の人生は短い。残りの人生で、これまで受けた恩を返すことができるだろうか。

全力で生きねばならない。

 


さて、バンクーバーまで残り4000km。ご安全に。

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チョコチップクッキーをフライパンで熱してみた。美味い!そして遠くの山が美しい。
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テントから100mのとこでバリバリヘリコプターがやって来ては飛び立っていく。
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ヘリに乗る人たちの荷物。なんだろ。
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朝焼けに飛び立つヘリコプター。さながらバイオハザードシリーズのエンディングだ。
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可愛いお花。
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あんなテントあったっけ?と思ったらヘリコプターの風圧に吹き飛ばされた俺のテントで笑った。

 

 


21:35 Fairbanks

9時にCOLD FOOT CAMP出発。ヘリコプターの離着陸を間近で見れたり、次々に現れる旅人たちと談笑したり情報交換したりと楽しいキャンプ場だった。最果てを目指す者たちが集まる場所だからか、アウストラル街道の旅の雰囲気と似ていて心地が良かった。

 


出発してからは夕方までにフェアバンクスに着くために、行きよりもカッ飛ばしまくってダートとアスファルトをすっ飛んでいった。

今朝から、ダルトンハイウェイに来てから一番の快晴で暖かく、風を切ってガンガン走るのは爽快だった。

途中の工事区間以外はアクセル回し続けて、道端で歩き旅の中国人女性のエイダと知り合ったりもしながら、16時にフェアバンクスに着いた。到着直前で、マシンガンのような、あり得ないほどのデカい粒と勢いの豪雨を食らって身体中穴だらけになるんじゃないかと思ったが、何とかCostcoに逃げ込み、雨が上がったスキに野営地に移動して設営。間一髪、今も大粒の雨がテントをバシバシ叩いている。予報では今夜中に晴れるとのため、テントも持ち堪えてくれるだろう。

 


今日、俺は狼に出会った。

晴天の下、気持ちよくダートを走っていると、何かが右手の茂みから飛び出してきたのが視界の隅に映った。

急停止し振り返って見ると、犬のようなのがこちらに向かって駆けて来てきた。

 


狼だった。

どっからどう見ても狼。あんな猛々しい狼ヅラの犬なんて知らない。茶のフワフワした体毛に、背中は黒と白が混じっている。尻尾はよりフワフワと太く膨らんでおり、ガッシリと伸びた手脚の先には黒く鋭い爪が並んで大地をしっかり捉えている。

そして、ピンと立った耳と、一度見たら忘れられないあの眼光。

紛れもなく狼だった。

 


俺が振り向いて数秒見つめ合うと、何故かペロンと舌を出してまたこっちに歩いてきた。

俺もまた距離を取ってカメラを取り出し、話しかけながら撮影した。

そして数分のやり取りの後、彼は茂みの中にスッと消えて行った。

 


面白いやつだった。

頭を下げて舌を出してトテトテと近寄ってくる姿なんて、南米で出会ってきた犬たちが気を許した時に見せた姿そのものだった。

そしてまた、あいつも独りだった。まさしく一匹狼だ。どうしてあそこに、あんな道にまで出てきたのだろう。俺を追いかける姿は、どうみても捕食者のそれではなかった。追っかけっこを楽しんでいるようだった。

 


時間にしてみればほんの5、6分の戯れだった。

だが俺は、言葉の通じない一匹の狼と、確かに心の交流ができたように感じた。同じ変わり者同士、種を超えて親近感も覚えた。

あいつに会ってからというものの、興奮はフツフツと感動に変わり、ずっと上の空だった。

 


俺は感動した。

まさか、野生の狼に会えるなんて思ってもみなかった。

しかも、見に行ったのではなく、出会ったのだ。お互いの旅の途中で、だ。

俺にとってアラスカの象徴的な生き物は、クジラとカリブー、クマとムースだった。

だから走りながら、アラスカの原野と森の中にクマやムースの姿を探し続けた。

しかしデッドホースというほとんど人の手の入っていない最果てにまで行っても彼らには会えなかったため、またいつか来た時に、と潔く受け入れていたら、まさかだった。

 

 

 

俺は、得た。

もう一つの時間を、自分で見たアラスカの景色、自分の旅で出会った一匹の狼を通して完全に得ることができた。

俺はこれから先の人生で、何度でもどんな時でも、この地に流れるもう一つの時間に、想いを馳せることができる。

もはや本で知った世界ではない。俺がその地で呼吸をして知った世界だ。

主人公はクマでもムースでもなく、あの一匹狼だ。

あいつが今もこの瞬間、俺が走って歩いて釣りして野営したあの地を、独り旅している。

この揺るぎない事実を想像すると、あまりにも美しすぎて涙しそうになる。

 


俺はまた救われてしまった。

アラスカの自然が、俺のこれからの新しい旅への餞として、最後に粋な計らいをしてくれたのだろうか。

想い続けてきて良かった。俺の想いは、これ以上ない形で報われた。

もう、この旅でのアラスカへの心残りは一片たりとも無い。

俺は満足だ。

今まで生きてきて、本当に良かった。

 


旅の話を聞かせてくれと言われたら、俺は今日という日についてなら素直に伝えられそうだ。

 


満足だ。

これから先、俺はアラスカと共に生きていける。

 

 

 

走行距離 425km

金 Costco750 ガソリン2500

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ブログを編集している今も、俺の頭の中はこの狼のことでいっぱいになっている。

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ユーコンキャンプリバーにて。目の前のユーコン川にスナメリらしきのが出没するらしい。大村湾のスナメリといい、こいつらは本当に自由だな。

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走行中ノールック撮影。CAPCOM製ではないようだ。なんかプラモみたい。
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サイドミラーのアラスカ。
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帰り道終盤に頻出した穴ボコ。これはまだ可愛い方。
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これにハマったら終わり。穴の底は見えない。ダルトンハイウェイでの速度域でこの穴ボコ、いや溝に突っ込んだらパンクでは済まない大事故になるだろう。場所はダルトンハイウェイの看板のある道の起点から20km周辺。No name creek の近く。冗談抜きでちょっとの気の緩みで簡単にこんな穴に突っ込んでしまう。一個見つけたらその先何十ヶ所も現れると思って欲しい。もしこの地を訪れる方が読んで下さっているなら、本当に本当に気をつけて下さい。最悪死にます。
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片側交互通行待ちで足元にいたチョウチョ。鼻がちぎれて弱っていたため、せめてと土の上に返した。走っているとこいつらが道路上でパタパタ飛んでいるのに突っ込んでしまう。

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ジャンキー飯に体が悦ぶ。ピザ2枚同時は初の試みだったが、ちょっとくどいかも…。
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改めて確認。やっぱ北極圏にいたようだ。すごいな、遠くまで来たんだな。f:id:fasasabi:20230818053517j:image

日記には簡単に書いたが、本当にイカれてるんじゃないかってほどの地獄の豪雨だった。あんなのが1時間も続けば街が沈むんじゃ無いか…。若い頃夏の通雨をカッパ着ないで走ってイッテー!と仲間たちとはしゃいでいたが、今回経験したのは比べ物にならないものだった。どんな過程を経て雨粒があんなに重く大きくなるんだ…?わけわからん。
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どこかで害虫もタバコの匂いを嫌うと聞いたことがあったため、コスプレアイテム化しているアメスピを蚊取り線香と一緒に燃やしてテントに入れてみたら、人間の俺がむせてしまって一人漫才となった。馬鹿でしょ。